アニコム損保、親猫にはない新規の遺伝子変異により筋ジストロフィーを発症したネコの症例を報告
アニコム損保は、国立大学法人北海道大学(総長寳金清博、以下北海道大学)との共同研究(以下本研究)を通じ、親猫にはない新規に生じた遺伝子の突然変異によってネコの筋ジストロフィーが発症したことを明らかにした。この成果は、非侵襲性の遺伝子検査の実施が、ネコにおける筋ジストロフィーの診断補助、治療方針の策定、さらにはネコの繁殖に役立つことを示している。
本研究成果は獣医内科学に関する専門誌『Journal of Veterinary Internal Medicine』にて4月13日にオンライン公開された。
■本研究の背景
ネコのジストロフィン欠損性筋ジストロフィー(Muscular Dystrophy:MD)は、X染色体上に存在するジストロフィン遺伝子(Dystrophin:DMD)の異常によって引き起こされる病気である。近年、ヒト医療においては、ゲノム情報をもとに病気の診断、治療方針の策定に繋げるゲノム医療が広く行われている。ゲノム医療は獣医領域においても注目を集めつつあり、イヌやネコのゲノム情報をもとに様々な遺伝性疾患の診断が行われてきている。
本研究では、北海道大学附属動物医療センターに来院したMDの疑いがあるキンカロー種(アメリカン・カールとマンチカンの交配種)の雄ネコに対して正確な診断を行うため、DMD遺伝子を含むすべての遺伝情報(ゲノム)を調べるとともに、親猫やキンカローおよびキンカローに近縁なアメリカン・カールとマンチカンを合わせた357個体に対しても追加で調査を行った。
■本研究の成果
北海道大学附属動物医療センターに来院した10ヶ月のキンカロー種の雄ネコは、臨床徴候としては明らかな症状はなかった。しかし、血液検査、超音波検査、CT、病理学的検査により、このネコがMDに罹患していることが分かった。
次に、原因となる遺伝子変異を明らかにするため、このネコの血液からDNAを抽出し、次世代シークエンサーにより全ゲノムシークエンシング(Whole Genome Sequencing:WGS)を行った。続くWGSのデータ解析で、DMD遺伝子上にあるタンパク質の生産に大きく影響すると予測される変異を抽出したところ、これまでに知られていたDMDの遺伝子の変異は存在せず、別の位置に該当する変異が見つかった。
さらに、この変異が親猫のどちらかに由来するものか、突然変異により生じたものかを調べるため、親猫2頭の臨床診断と当該遺伝子変異の有無を確認した。エコーや血液検査等の複数の臨床検査の結果、親猫2頭は現在までに臨床的に健康であること、当該変異を持たないことが明らかになった。また、キンカローを97頭、アメリカン・カールとマンチカン、それぞれ125頭と132頭においても変異の有無を調べたところ、該当する変異は見つからなかった。以上から、今回明らかになったDMD上の変異は該当個体でのみ確認されたため、新しく生じた突然変異であることが分かった。
■MDの罹患ネコ
本研究は、親では存在しない変異が、子で新たに生じ、病気を引き起こすことが確認された。また、重篤な遺伝性疾患においては、これまで広く使用されてきた特定の遺伝子変異に対する単一の遺伝子検査のみならず、遺伝子全体など、より広範囲の領域を調べることの重要性を示している。本研究に続く次世代シークエンサーを使用した様々な遺伝子変異の解析により、診断の補助や治療方針の策定に遺伝情報を活用できる可能性がある。
今後も同社グループでは、様々な研究を通じて獣医療の発展と動物福祉の向上を目指していく。