三井住友海上、都市型水害の被害軽減に向けて「内水氾濫予測システム」を構築
三井住友海上ならびに株式会社ハイドロ総合技術研究所は、愛媛県のデジタル田園都市国家構想推進交付金事業において、「内水氾濫予測システム」を開発し、技術検証を実施した。2024年の出水期からはユースケースの構築等、システム実装に向けたさらなる検証を重ね、全国自治体への展開を目指す。
両社は、本取組を通じて安心と安全を提供し、災害に強い強靭なまちづくりに貢献していく。
愛媛県は「多極分散を志向した強靭なデジタルまちづくり」がデジタル実装TYPE2に採択され、ICTなどの先端技術を活用しながら、地域の抱える社会課題の解決に取り組んでいる。
1.背景
昨今の自然災害の激甚化により「外水氾濫」や「内水氾濫」による被害が増加している。これまで、三井住友海上は、外水氾濫を予測する技術を研究し、防災ダッシュボード※等を開発してきた。
一方で、内水氾濫の発生予測には、下水道管や排水施設等を考慮する必要があることから、技術が確立されていなかった。そのような中、水循環の解析技術に知見を持つハイドロ総研との協業により、新たに「内水氾濫予測システム」を開発し、松山市と宇和島市を対象とした技術検証を実施した。
※災害リスクのリアルタイム可視化・事前予測、発災後の被害推定等を分かりやすくダッシュボード上に表示し、 地域の防災・減災を支援する自治体向けWebサービス
外水氾濫 河川の水位が上昇し、堤防を越えたり破堤したりすることで、堤防から水が溢れる
内水氾濫 河川の水位の上昇や流域内の多量の降雨等により、河川外における住宅地などの排水が困難となり、浸水する(「都市型水害」とも呼ばれる)
2.内水氾濫予測システムの概要
内水氾濫は、河川から水が溢れる外水氾濫よりも発生頻度が高く、特に都市部での発生が問題となっている。本システムでは、気象庁が発信する予測降雨情報をもとに浸水状況をシミュレーションすることで、内水氾濫の発生や氾濫水位を以下2つのモデルで予測する。予測結果は、住民の避難や浸水対策、交通規制など事前行動の判断材料となり、被害軽減に役立てることができる。
(1)内水氾濫予測FASTモデル(検証フィールド:松山市)
降った雨が地表面を流れ、地面に浸透、または水路や下水道管により排水されるまでの経過を25m四方のメッシュで計算するモデルである。独自のアルゴリズムで各メッシュの排水能力を設定して おり、モデル作成に必要なデータ数量が少ないため、モデル作成に要する時間が短く、広範囲を予測することに適している。
(2)内外水統合型氾濫予測モデル(検証フィールド:宇和島市)
外水氾濫と内水氾濫を同時に取り扱う、より高度なモデルである。地表面、河川、下水道の詳細データを組み込むことで、河川水位の上昇に伴って雨水を河川に排出する水門を閉じるなど、氾濫過程を現実に近い形で予測することができる。下水道管や排水施設等、計算に必要なデータ数が多いため、 モデル作成には数か月を要するが、高速計算のアルゴリズムにより、リアルタイム浸水予測を高精度で実現している。
3.各社の役割
■団体・会社名:三井住友海上
役 割:本プロジェクトの運営主体。
予測に必要な「降雨・潮位データ」と検証に必要な「水位計実測値」をハイドロ総研に提供し、同社の予測データを三井住友海上の「防災ダッシュボード」上に可視化。
■団体・会社名:ハイドロ総研
役 割:内水氾濫予測システムを開発。
出水期に本システムで算出した予測水位と水位計による実測水位を比較し、各モデルの正確性・有効性を検証。
4.2023年度技術検証の結果と今後の展開
松山市と宇和島市で、出水期の降雨時データをもとに、「本システムの予測結果」および「水位計による実測水位」を比較・検証し、結果、実際の水位の上昇やピーク時間などが再現できた。
また、以下の差が各モデルの精度(誤差)に影響することも認識し、本システム活用における課題が明確になった。
・両モデルで使用する気象庁の予測降雨量と実際の降雨量
・内外水統合型氾濫予測モデルで使用する管路データ(管径、勾配、集水面積)と実際の数値
・フラップゲート※2の機種(自動開閉機能が異なることによる効果)
※2:排水管の末端に取り付ける「簡易逆流防止弁」。水圧で開き、弁体の自重や河川からの逆圧で閉じることで、水の出入りを調整する。常時自動開閉する機種や、河川水位に応じて自動開閉に切り替える機種がある。
2024年度には、明確化した課題を解消しながら技術検証を継続し、予測精度をさらに高める。また、実装に向けた予測データのユースケースを構築し、全国自治体への展開を目指していく。