先送りでなく、未来に投資を
時代が求める限り経営者と走り続ける
~「資本性劣後ローン『徹底攻略』ガイド」巻末スペシャルインタビューより転載。
新型コロナウイルス感染拡大、ウクライナ情勢悪化による物価高騰など経営状況がいっそう厳しさを増す中、中小企業の事業再生などの支援に携わっている株式会社しのざき総研・篠﨑啓嗣代表。銀行員時代以来、3000人以上の経営者らと膝詰めで相談に応じてきた。実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)など政府が推進するコロナ関連融資で短期的な運転資金を確保する零細企業が増える中で「未来への投資を怠り問題を先送りするだけでは、来るべき新たな時代を生き延びることができない」と警鐘を鳴らす。今、経営者らとどのような想いで向き合っているのか――篠﨑氏本人に訊いた。
相談数はコロナ前の3倍
――このインタビュー前後も面談予定が詰まっている。なぜ足元、経営者からの相談が絶えないのか。
「今が変革の時代であると、経営者たちがようやく気づき始めたからだろう。明治維新後や大戦後の復興期と同様、従来の常識を妄信し、それに従っているだけでは変革の時代を生きられない。新型コロナ、ウクライナ情勢の悪化によって旧来システムの抱える矛盾と弊害が一気に顕在化した。行き詰まりを憶えた経営者たちは新しい時代のルールに順応するための助言者、伴走者を求めている」
「新型コロナ拡大前に比べ、事務所の門を叩く人が3倍ほどに増えている原因は情勢変化の影響だけではない。一方には、既存の金融機関に対する不信感ある。本来であれば銀行員こそが経営者の最も身近な伴走者であるべきにも関わらず、残念ながら一人一人の抱えている問題と真剣に向き合える人材は少ない」
「『良い大学』で正解が用意された問題を解くことに時間を費やすだけでは、経営者が抱える課題に対してクリエイティブな発想で解決策を提示するのは難しい。銀行員だけでなくコンサルを名乗る士業の人々にも同じことが言える。金融機関や自称コンサルたちへの不信がつのった結果、会計、簿記を理解し、企業経営を理解している人間がコンサルタントとして選ばれる時代になってきたのだろう」
地獄を見たから、寄り添える
――なぜ経営者の支援に携わるようになったのか。
「原点は銀行員時代にある。大学時代、簿記・会計の勉強に打ち込んでいたので、決算書から経営状況を読み取る力では、最初から同僚の誰にも負けない自信があった。振り出しの栃木で支店長が私の能力を買い、融資渉外担当に専念させてくれた」
「その後も群馬、埼玉の支店で経営者のもとを回り続けた。新規融資や他行肩代わり融資の案件が得意で、退職するまでの間、融資先に一件も倒産させなかったことを今も誇りに感じている」
――原動力はどこにあるのか。
「一度、辛い経験をした。世話になっていた知人が借金をする際の連帯保証人となった結果、数千万円の負債を抱えてしまった。死ぬ物狂いで働きながら、食事は立ちソバで我慢して切り詰め、なんとか六年半で完済した」
「かつて私が味わったのと同じ苦しみを抱える人を、自らの知識と経験で救い出すことができるのであればそれがこの時代状況で自らに与えられた使命だと、それ以来強く意識するようになった。地獄を見たからこそ苦しむ人間の心が分かる。そういった自負を抱き、保険会社、コンサル会社を経て2013年6月に独立した」
優しい言葉では救えない
――クライアントに対する歯に衣着せぬ率直な物言いでも知られる。
「たしかにコンサルを名乗る人々の中には、財務状況の改善よりもクライアントに嫌われないことを優先するためか、経営者にとって耳触りの良い言葉をひたすら掛け続ける者もいる。ただ、有限の時間の中で人間をどん底から引き上げなければならないときに、甘い言葉など掛けている場合でないのは明らかだ」
「経験とそこから導き出されたノウハウとを駆使し、目の前の相手を命がけで救い出さなければいけない。瀬戸際にいる経営者を前に、口にしづらいことをオブラートに包んだり、優しい言葉に置き換えたりと生易しい姿勢を取ることは、かえってコンサルタントとしての誠意に欠け、クライアントへの失礼にさえ当たるだろう」
「コンサルに求められるのはいわば外科手術であり、痛みを和らげて最期を待つ終末医療ではない。現状を打開するつもりがあるのであれば、私の厳しい言葉を受け止める覚悟を持って来ていただきたい。相談に訪れる方には最初の段階でそうお願いしている。私の率直な言葉をも受け止める覚悟がないのであれば、残念ながら『優しいだけ』のコンサルに相談先を変えてもらうしかない」
夜明けを迎えるために
――クライアントと共に目指す先は。
「仮に私のアドバイスに従って経営状態を改善することができたとしても、真のゴールはその先にある。私が常に掲げている目標は、クライアントが私を必要としない日を迎えることだ。伴走者の存在が必要ではなくなり、再び自走できるようになれば、その時、ようやく経営者にとって本当の夜明けが始まる」
「業界を見渡すと、既に苦境から抜け出している顧客に対し、コンサル側が顧問契約の継続を積極的に提案するケースも多いようだ。顧客にしてみればコンサルティングは自らを窮地から引き上げる最後の希望だ。そのコンサルという業を、単なる収益最大化の追求、つまり金儲けの一手段として見做すというのであれば、顧問契約の継続もひとつ考え方だろう」
「ただ、旧来の顧客にしがみつくコンサルに、本当に救済を必要としている人々に対して真剣なアドバイスができるとは私には思えない。私の顧問料は安いとは言えないが、それは必要とされる時期にエネルギーを集中させるためだ」
「とはいえ先方から顧問契約を継続を求められることも多い。もちろん信頼していただけるのはありがたいが、自走できる状態になったら、基本的にこちらから継続を提案することはしないようにしている。1人でも多くの経営者を救うためには、今一番苦しい状況に立たされている経営者と向き合う時間が必要になるからだ」
自らに矢を向ける覚悟を
――新型コロナや物価高騰で苦しむ経営者に改めて伝えたいことは。
「この状況を切り抜けるのに必要不可欠なのは、見たくない部分に目を向ける勇気だ。例えば、年商10億円以下の企業は、経営体制や資本が脆弱で外部環境の影響を受けやすく、黒字幅が小さい一方で赤字幅が大きい。資産背景も脆弱で、信用保証協会付け融資がメインとなっている場合が多い。経営者たちはえてして周囲にイエスマンが集まり、こうした問題を正面から指摘されることに慣れていない」
――経営者と向き合う際、心がけていることは。
「最初にクライアントと面談する時、私が見ているのは単に財務的な数値だけではない。まず目を見るようにしている。相手の言葉に耳を澄ますようにしている。本当に現状を変える気があるかどうか、目の動きや言葉遣いですぐに分かる。『頑張ります』ではなく、『やります』と言える人にこそ、窮地を自力で切り抜けるポテンシャルがある」
「私自身、妥協できない性格がたたり、今は息つく間もないほど忙しい。ただ、息抜きや気晴らしが欲しいとは思わない。一人でも多くの経営者の課題を解決することが、仕事の疲れに対する報いとなっている。それだけ、経営者と向き合うこの仕事に愛と誇りを持っている」
「取り扱い件数がどれほど増えたからといって、一人一人との関係を希釈化するわけにはいかない。時代が私を求めている限り、一人でも多くの経営者たちを救うため、私を頼ってくれる経営者たちとともに命がけで走り続けるしかない」
篠﨑啓嗣氏プロフィール
株式会社しのざき総研代表取締役
群馬銀行で10年にわたり融資渉外等を担当。生命保険会社、損害保険会社、事業再生コンサル会社を経て2013年6月にしのざき総研を設立、翌14年2月に法人化。「社長さん!銀行員の言うことをハイハイ聞いてたらあなたの会社、潰されますよ!」など著書多数。
(聞き手・構成=川辺和将 東京大学大学院総合文化研究科修了。元毎日新聞政治部記者。金融専門誌を経て独立)
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