記者のつぶやき「業界激震! 法人契約の税務見直し」

■国税庁 全額損金は解約返戻率50%以内に限定

全額損金算入はピーク時の解約返戻率が50%以内に限定―法人が支払う定期保険・第三分野保険の保険料について、税務取扱いの見直しを検討している旨の通知が国税庁からあった。法人が支払う保険料が全額損金算入でき、ピーク時の解約返戻率が80~90%という法人向け生命保険が業績好調な企業の決算対策として活用されてきた。一昨年4月からは新しいタイプの商品が相次いで発売されるなか、返戻率競争が過熱し、税制変更も懸念されていたが、それが現実のものとなった。法人マーケットを主に活動する生命保険会社や代理店等は、戦略の見直しが必要となる。

■通達等による現行の取扱いをリセット
商品に関係なく同一の基準で

2月13日、国税庁から法人契約の税務取扱い見直しが生保全社に伝えられた。
昨年6月の「事業費モニタリングにおけるアンケート」から始まった法人向け定期保険の付加保険料部分の問題については、数回のアンケート・ヒアリングを通して実態把握を行った結果、昨年末に当該会社に対して是正指導が行われた。年が明けて、各社は金融庁に改定スケジュールを提出し、付加保険料問題については一応の決着をみたところであった。
次の注目点は、税務取扱いの変更に進むのかという点であったが、見直しに向けての動きが一気に進んだ格好となった。
過去の法人向け生命保険の取扱いの制定・変更の場面では過熱する返戻率競争が背景となっていたこともあり、税務取扱い変更への懸念は高まっていた。
付加保険料問題に関する一連の報道で「節税保険」という保険料支払時の損金算入のみに着目した〝呼び名〟が定着してしまい、これも税務見直しへの地ならしと受け取る向きもあったが、まさにその懸念が当たってしまった。しかも、その見直し方針は、想定をはるかに超えるものだった。

■現行の法人契約の支払保険料の損金取扱い
商品:保険料の税務取扱い(損金算入割合)
●長期平準定期保険:前半6割期間は1/2損金
●逓増定期保険:全額、前半6割期間は1/2、1/3、1/4損金
●医療保険:定期タイプ、終身タイプとも全額損金
●がん保険:
・定期タイプ…全額損金
・終身タイプ…前半5割期間は1/2損金
●長期傷害保険:前半7割期間は1/4損金

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税務取扱い見直し検討のポイントは、
・現行の個別通達(長期平準定期保険、逓増定期保険、がん・医療保険)および文書回答(長期傷害保険)を廃止し、単一的な資産計上ルールを新たに創設
・対象となる保険商品は、「法人が自己を契約者」とし、「役員または使用人を被保険者」として契約する「保険期間3年以上の定期保険と第三分野商品」で、「満期返戻金がなく」、「支払保険料が給与とならないもの」
・ピーク時の解約返戻率(=解約返戻金÷既払込保険料)が50%超となるもの
これまでは個別通達等で商品グループごとの税務取扱いを明らかにしてきたが、これをリセットし、商品グループに関わらず同一の基準で適用するということだ。つまり、今回の見直しの対象は、昨年来話題となっていた“全損定期”だけに限定されない。

税務取扱い見直しにあたっては、その適用関係が気になる。平成20年の逓増定期保険、平成24年のがん終身保険の通達改正・新設の時のように新契約から適用となるのか、それとも既契約であっても通達発遣日以後は新しい取扱いを適用するのか。業界としては新契約からの適用を目指すと思われるが、当然ながら、現時点では未定とされている。

今回示されたような考え方は、国税庁の法人課税課の担当官からはよく聞かれたことだった。過度な販売競争から生まれた税務上の矛盾点について新しい通達等で取扱いを定めても、またその抜け道をついた新商品が出てくるのではいたちごっこだと。
今回の見直しを機に、商品グループに関わらない同一基準による規定を実現しようということだ。

また、ピーク時の解約返戻率50%以下の商品については保険料の全額損金算入を認めるということも、これまでの取扱い変更の際にひとつの目安として示されてきた。
見直し作業はこれからだが、ほとんどの会社が関連する商品を売り止めとしている状況を考えると、決着までの日程はこれまでよりも短くなることも想定される。

昨年の税制改正で創設された事業承継税制の特例措置により、中小企業の事業承継が大きく動き出そうとしている現状であるが、後継者への事業承継を終えても、その後、資金繰りがひっ迫する恐れがある。

「節税保険」と入り口部分のみが強調された形だが、中小企業にとっては売上が好調で利益も出ている状況下、これらの生命保険を利用して法人税等を軽減して含みに変え、将来必要となるかもしれない資金ニーズに備える自己資金づくりという側面もあった。事実、それによって苦しい時期を乗り切ることができた企業も多い。
やり過ぎたと言えばその通りだが、事業保障や退職慰労金の準備、事業承継に伴う様々なリスクに対してどう手当てするのかという中小企業経営者の不安に対して、創意工夫をして多様な商品が生まれてきたのも事実である。
やはり、早期決着が望まれる。

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