記者のつぶやき「金融庁が3月まで代理店ヒアリング実施、公的保険踏まえた募集状況などを確認、生保会社側にも協力を呼びかけ」

政府は足元、生保代理店を対象に、保険募集管理態勢の整備状況に関するヒアリングを実施中だ。①公的保険の説明に関するベストプラクティス②サイバーセキュリティ対策の取組状況③「業務品質評価基準」に関する取組み―の3点を重点的に調査する。ヒアリングは3月まで継続し、金融庁は保険会社側にも協力を呼びかけている。
■財務局と協働で実施
ヒアリングは昨年11月に開始し、各地の財務局と協働で金融庁が実施している。
公的保険制度の説明の在り方をめぐっては、金融庁が21年11月に監督指針を改正し、代理店や保険会社に対し、募集時に公的保険制度について説明した上で、商品を提案するよう求める考えを示した。翌22年3月には厚労省監修の下、主要な公的制度について解説する公的保険ポータルサイトを開設した。
公的保険の説明に関するヒアリングに金融庁が乗り出したのは、今回が初めてではない。1年前(22年11月から23年4月)に金融庁はすでに、代理店84先に対しヒアリングを実施。その時点で、ポータルサイトの活用を含め取組みの広がりが認められたものの、統一的な方法や内容で所属する募集人に説明するよう求めている代理店の割合は5割弱にとどまっているとの調査結果を明らかにした。
■「ポータルサイト」と「統一化」が焦点か
こうした経緯から、足元で実施中の調査においても先述ポータルサイトの活用や、統一的な方法・内容で説明するよう募集人に求める動きが、代理店の間でどの程度広がっているかについて重点的に聞き取りを行っているとみられる。
金融庁は代理店の取組みを促すために、生命保険会社に対しても協力を求める考えだ。公表資料によれば、11月に実施した生命保険協会との意見交換の場で当局側は、生保各社に対し「ヒアリングの対象となった保険代理店から相談や協力依頼があった場合には、親身な対応やご支援をお願いしたい」と呼びかけた。
■セキュリティの「抜け穴」を作らないために
 昨年6月に公表した「保険モニタリングレポート2023」によれば、サイバーセキュリティ対策に関する担当部署の設置や各種管理規定の整備を行っている代理店は約6割。コンティンジェンシープラン(非常時に備えた計画書)を策定している代理店は約5割にとどまった。金融庁は「さらなる取組みの進展が望まれる」(同レポート)として、代理店における体制、システム整備を促してきた。
金融庁が代理店におけるサイバーセキュリティ対策に関心を示しているのには理由がある。ランサムウエア(身代金要求型ウイルス)などサイバー空間における脅威は深刻化、多様化が進んでいる。メガバンクなど規模の大きい金融機関においては比較的、セキュリティに資金、人材を回しやすい一方、地域の小規模金融機関はセキュリティ対策にリソースを割くことが難しい傾向がある。
デジタル技術が高度化し、保険を含む金融業界全体でオンライン化が進む中、事業者の保有するデータやシステムは相互の結びつきを強め、業界全体として巨大なネットワークを形成しつつある。結果的に、地域金融機関や代理店のうち事業規模が比較的小さい事業者がセキュリティの「抜け穴」になりやすいというリスクが国際的に問題視されている。
こうした認識を踏まえ、金融庁は国内の中小金融機関の課題として①外部からの情報収集②業務・顧客への影響評価③再発防止策を検討・実施した上での復旧―といった対応が不十分と指摘。セキュリティ演習の実施などを通じ、広く対策の徹底を呼びかけている。
■2年連続で「評価基準」を調査項目に加えた狙い
「業務品質評価基準」に関する代理店の取組みについては、前の年のヒアリングで初めて重点項目に加えられ、今年で2回目の調査となる。基準自体は生命保険協会が主体となって取りまとめ、代理店による自己チェックをベースとして、希望する事業者を対象に生保協が取組状況を審査・認定する仕組みだ。基本的には民間側の自主的な取組みだが、顧客本位の業務運営の拡大を狙う金融庁の立場でヒアリング項目に加えることで、各代理店の対応を強力に促す狙いがあるようだ。
「顧客本位の業務運営に関する取組方針」を策定・公表している場合は、その取組状況も今回のヒアリングにおいて調査項目の一つとなる。また、昨年11月の金融サービス提供改正によって、代理店を含む幅広い業種を対象に、顧客の最善の利益を勘案した業務運営を求める新たなルール(いわゆる「最善利益義務」)が創設された。今回のヒアリング以降、当局側が最善利益義務の遂行状況についてどのようなメッセージを打ち出すかについても、業界内で関心を集めることになりそうだ。