27日(日)の海外市場においては、米EU間の関税交渉が15%の税率で合意に達したことが最大のイベントとなりました。
これにより、8月1日の関税発動期限を控えた市場の不確実性が一部解消され、リスク選好ムードが強まる展開となりました。直近のS&P500とナスダックが最高値を更新する強い株式市場を背景に、米ドルは対主要通貨で底堅い動きとなり、一方で安全資産である金は小幅下落しています。
また、今週に控える米FOMC、日銀金融政策決定会合、米中関税交渉という重要イベントを前に、市場は全体的にやや様子見姿勢の強い地合いとなっています。
主要ニュース分析
【重要度:★★★】【影響期間:中期】米EU関税交渉が合意、輸入品に15%の関税適用へ
テクニカル分析
ユーロドル(EUR/USD)は現在1.1720付近で推移し、日足チャートでは21日移動平均線(1.1680)を上回る水準を維持。1.1750のレジスタンスに対して上値を試す展開が想定される。RSIは56.4とやや買われ過ぎではないが、上昇モメンタムがある状態。
ファンダメンタル分析
トランプ大統領とEUのフォンデアライエン委員長による関税合意は、当初予定されていた30%の関税が15%に引き下げられるという内容で、自動車を含む大半の輸入品に適用されることになります。EUは見返りとして6,000億ドル規模の対米投資と、米国産天然ガス・農産物購入の拡大で合意しました。
この合意は2018-2019年に起きた米EU間貿易摩擦の再現を回避する形となりました。当時は鉄鋼・アルミ関税で市場が混乱し、S&P500が約20%下落する局面がありましたが、今回はその事前回避となったため、市場安定化要因として機能しています。
市場インパクト評価:
- 短期影響度:8/10(1週間)
- 中期影響度:7/10(1-3か月)
- 長期影響度:5/10(3か月以上)
リスクオフ懸念の後退により、ユーロドル上昇、米株高、ハイイールド債スプレッド縮小など、リスク資産全般にポジティブ影響があります。特に欧州自動車セクターは関税率低減効果が大きく、DAX指数やユーロストックス50指数の上昇要因となりそうです。ただし、鉄鋼・アルミの関税が50%維持される点は引き続き懸念材料です。
【重要度:★★☆】【影響期間:短期~中期】米中関税交渉、28-29日にスウェーデンで開催
テクニカル分析
米ドル人民元(USD/CNH)は6.3850付近で推移し、重要サポートレベルである6.3700を意識した動きとなっています。MACD指標はシグナルラインとのデッドクロス形成の兆しがあり、短期的な人民元高(ドル安)が示唆されています。
ファンダメンタル分析
米中両国は28-29日にストックホルムで閣僚級協議を実施予定で、香港紙SCMPによれば相互関税の上乗せ分(24%)適用を90日間延長する見通しです。これは5月の協議合意の延長となり、期限は11月中旬までとなる見込みです。
2021年1月の米中第一段階合意では、中国が2年間で2000億ドルの米国製品購入を約束しましたが、実際の達成率は57%にとどまりました。今回の交渉でも貿易目標の設定と実行の間にギャップが生じる可能性があり、市場は合意の具体的内容と実施状況を注視する必要があります。
市場インパクト評価
- 短期影響度:6/10(1週間)
- 中期影響度:6/10(1-3か月)
- 長期影響度:4/10(3か月以上)
米中関係改善のシグナルとなれば、オフショア人民元(CNH)と中国株式市場にポジティブな影響が予想されます。また、米国中間財に依存するグローバルサプライチェーンへのリスク緩和となり、ASEANや台湾などの輸出関連通貨にも好影響を与える可能性があります。ただし、暫定的措置であるため、中期的なリスクは残存しています。
【重要度:★★☆】【影響期間:短期】米国株式市場、S&P500とナスダックが連日最高値更新
テクニカル分析
S&P500指数はボリンジャーバンド上限を突破し、RSIは71.8とやや買われ過ぎ領域に入っています。200日移動平均線からの乖離率は+12.7%と高水準で、短期的な調整リスクが高まっています。一方、トレンド強度を示すADXは28.4と上昇トレンドの継続を示唆しています。
ファンダメンタル分析
米国株式市場は貿易協定合意期待と主要ハイテク企業の決算好調を背景に上昇を続け、S&P500は5営業日連続で上昇しました。VIX指数(恐怖指数)は16.2と、過去3か月平均(18.7)を下回る低水準で、投資家のリスク許容度の高まりを示しています。
PER(株価収益率)で見ると、S&P500は21.6倍と過去5年平均(19.2倍)を上回っており、バリュエーション面では割高感が出始めています。この水準は2021年4月のピーク(22.8倍)に近づきつつあり、FRBの金融引き締め政策と並行した場合、調整リスクが高まる可能性があります。
市場インパクト評価:
- 短期影響度:7/10(1週間)
- 中期影響度:5/10(1-3か月)
- 長期影響度:3/10(3か月以上)
米国株高は世界的な株高の牽引役となっており、日本株やアジア株にもポジティブな波及効果があります。ただし、過熱感を示す指標が増えており、来週のFOMCを控えて利益確定売りが入るリスクも高まっています。セクター別ではハイテク株と素材株が堅調で、バリュー株への資金シフトの兆候も見られます。
【重要度:★☆☆】【影響期間:短期~中期】金価格、調整も高水準を維持
テクニカル分析
金価格(XAU/USD)は3,336ドル付近で推移し、直近の高値3,360ドルからの調整局面にあります。フィボナッチ23.6%リトレースメントレベル(3,320ドル)が下値支持点となっており、このレベルでの反発可能性が高いです。ストキャスティクスは下落傾向にありますが、オーバーソールド域には達していません。
ファンダメンタル分析
金価格は米EU貿易合意でリスク選好ムードが強まり、一時的に調整しています。リアルイールド(実質金利)の動向と逆相関の関係が継続しており、期間10年のTIPS利回りは0.65%で推移、先週に比べて小幅上昇しています。中央銀行の金購入は継続しており、特に中国、インド、ロシアの買い入れが目立ちます。
2022年のロシアウクライナ危機時には地政学リスクで金価格が約15%上昇した事例がありますが、現在の水準は既に割高感があり、地政学プレミアムの一部は既に織り込まれている状況です。
市場インパクト評価
- 短期影響度:5/10(1週間)
- 中期影響度:6/10(1-3か月)
- 長期影響度:7/10(3か月以上)
FOMCを控えてディフェンシブなポジションを構築する投資家が多く、金への需要は底堅く推移する見通しです。金鉱株ETFへの資金流入が増加しており、実物金の保有と比較して流動性の高い金投資への需要が高まっています。金価格が3,300ドルを下回らない限り、上昇トレンドは維持される可能性が高いです。
トレード戦略提案
1. EUR/USD:レンジブレイク戦略
- 戦略タイプ:ブレイクアウト+スイングトレード
- 根拠:米EU関税合意による不確実性低下でユーロ買いが優勢
- エントリーポイント:1.1750レジスタンスブレイク時に買い
- 利確目標:1.1820(2024年11月高値)
- 損切りレベル:1.1680(21日移動平均線)
- リスク/リワード比:1:2.3
- 注意点:ECB政策スタンスの変化に注意が必要
2. USD/CNH:逆張り戦略
- 戦略タイプ:レンジ相場での反転取引
- 根拠:米中関税交渉での一時停止延長見通しで人民元強含み
- エントリーポイント:6.3900付近で売り
- 利確目標:6.3500(心理的節目)
- 損切りレベル:6.4200(過去2週間の高値)
- リスク/リワード比:1:1.33
- 注意点:交渉決裂のサプライズには即時撤退
3. S&P500:利益確定+ヘッジ戦略
- 戦略タイプ:ポートフォリオリバランス
- 根拠:指数の過熱感とFOMC前の調整リスク
- 推奨アクション:ハイテクセクターのオーバーウェイト部分を20%売却
- ヘッジ:VIX先物(期近)の小規模買い、または9月満期のプットオプション
- 再エントリー条件:S&P500が5%以上調整後、または200日移動平均線(5%下方)付近
- リスク/リワード比:1:1.5
- 注意点:全面売りではなく、部分的な利益確定とヘッジを組み合わせる
4. 金(XAU/USD):ブレイクダウン戦略
- 戦略タイプ:テクニカルサポートブレイク監視
- 根拠:リスク選好環境での安全資産調整の可能性
- 監視レベル:3,320ドル(フィボナッチ23.6%)
- エントリー条件:3,320ドル割れで確認後、短期売り
- 利確目標:3,280ドル(フィボナッチ38.2%)
- 損切りレベル:3,345ドル(直近高値)
- リスク/リワード比:1:1.6
- 注意点:FOMCでタカ派転換があれば戦略見直し
リスク管理の注意点
- 今週の重要イベントスケジュール
- 7月29-30日:FOMC会合
- 7月28-29日:米中関税交渉
- 7月31日:日銀金融政策決定会合
- 8月2日:米雇用統計 これらのイベント前後ではボラティリティ増大が予想されるため、ポジションサイズの縮小(通常の50-70%)を推奨します。
- 相関性の崩れに注意 最近の資産間相関は変化しつつあり、特にドル指数と米国株式の正の相関が強まっています。これは過去5年の平均的な負の相関とは逆の動きであり、分散投資効果を低下させる可能性があります。
- 流動性リスク 夏季休暇シーズンに入り、特に欧州市場では流動性の低下が見られます。急激な価格変動に備え、ストップロスの設定幅を通常より10-15%広げることを検討してください。
- ポジションサイズ管理 1回のトレードでの最大リスクは口座残高の2%以内に抑え、同一通貨ペアへのエクスポージャーは5%を超えないようにすることを推奨します。特に米ドル関連ペアへの集中は避け、地域分散を意識してください。
- ポートフォリオヘッジ 米国株式に対する過度のエクスポージャーがある場合、現在のVIX低水準時にヘッジコストが相対的に安いことを活用し、保有比率の15-20%程度のヘッジを検討してください。
市場は来週の三大イベント(FOMC、日銀会合、米中交渉)を控えて転換点を迎える可能性があります。トランプ政権の関税政策に対する不確実性は一部後退しましたが、中央銀行の金融政策スタンスが市場センチメントを大きく左右する局面となっています。特にFOMCでのパウエル議長のコミュニケーションと、日銀の追加利上げの可能性に注目が集まります。今週は機動的なポジション管理と、イベント通過後の新たなトレンドへの素早い対応が成功の鍵となるでしょう。
チーフアナリスト 山田
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